今回は前回に引き続き第十一篇「死地」について詳説されている。
孫子兵法の理論体系を見ると、孫子の戦争思想を著す第一篇から第三篇までの総論と、いわゆる兵力互角の戦いを説く第四篇、第五篇、そしていわゆる弱者の戦法を第六篇「虚実」、第七篇「軍争」、第八篇「九変」、そして本篇「九地」において説かれている。
表面的に見れば弱者の戦法を多篇において展開する孫子兵法は、勢い弱者の戦法が本質であるがごとく誤解されてしまうが、それは大きな間違いであると筆者は戒める。
力が支配する我々の住むこの物理世界において第三篇「謀攻」にある『故に用兵の法は、十なれば即ち之を囲み、五なれば即ち之を攻め、倍すれば即ち之を分かち、適すれば能く之と戦い、少なければ即ち能く之を逃れ、若かざれば即ち能く之を避く。』とある衆寡の用こそが孫子兵法の根底にある原理であり、ここを外れて孫子兵法は成り立たないのである。
では弱者は強者の前に滅びるしか無いのであろうか。否であると孫子は説く。確かに弱者が蟷螂之斧のごとく無思慮に強者に挑みかかれば、まさに第三篇「謀攻」にある『故に、小敵の堅は大敵の擒なり』を免れることはできない。しかし弱者が強者を攪乱し、各所において敵は分断、我は集中の状態を作り出し各個撃破することにより、弱者でも強者に勝つことができるのである。つまり弱者の戦法とは、弱者が強者の戦法を応用できるような環境を自らが作り出していく条件作りに他ならないのである。
孫子はこの弱者の戦法、つまり局所において強者となるための理論、要諦を第六篇「虚実」、第七篇「軍争」、第八篇「九変」において展開し、さらに本篇において死地作戦という具体的事例を展開することで、前篇までの所論を総括・復習するとともに、弱者の戦法の理解を徹底しているのである。
しかし孫子はこの死地作戦がいかに理論的に可能な作戦であったとしても、それを実行する将そして兵卒といったマンパワーがなければ、まさに机上の空論となってしまうことを力説している。
我に勝る敵が整って攻めてきたときに、少数精鋭部隊を以て敵国深く侵攻し相手の愛するところを奪うことで、慌ててそれを奪い返そうとする敵の焦りに虚が生じ、その虚に乗ずることで戦いの主導権を握るとするこの死地作戦。それはまさに捨て身の作戦であるからこそ、将の用兵能力と将の要求を的確に対応できる、いわゆる「常山の蛇」のごとく優れた兵卒の存在が必要不可欠なのである。
しかしこの有能な将と常山の蛇がごとくの兵卒は、第一篇における五事七計を基に、毎日の不断の努力があるからこそ為せる業であり、一朝一夕に作り出すことは不可能なのである。
さらに、有能な将と兵卒があって初めて死地作戦を実行に移せる条件が整ったといえるが、しかし「言うは易く行うは難し」と人口に膾炙するがごとく、考えることと実際に実行することとには雲泥の差が生ずる。その差を埋めるものこそ将の道である。
戦略の徹底と、適切な状況判断、地の利の活用、さらには人間の心理・行動原理を熟知し、兵卒の心の動きを正確にとらえて人心を掌握するとともに、適時彼らを戦わざるを得ない状況に追い込むことで最強の戦闘集団へと変えていく。将がこれらを強い決意のもと実行していくことで、はじめてこの死地作戦は可能となるのである。
戦いに勝つためにはタイミングや地形、その他様々な条件を活用することが重要であることは論を俟たないが、しかし勝利が最後に懸かっているのは将=人間そのものであり、孫子がこの孫子兵法全般において将の重要性を力説する所以である。この点からも孫子兵法は軍事に特化した人間学、リーダー学であるといえる。
上記の内容をこの孫子正解は詳細に解説している。孫子兵法に関する他の書籍を読んでみても、この孫子正解ほど孫子兵法の理論展開と、そのベースになっている孫子の思想を明快に示している書籍は他にない。その意味においてこの孫子正解は孫子の真髄を学ぶには最適の書籍といえる。表面的ではなく本質的に孫子兵法を理解するためにも、是非とも手に取ってもらいたい1冊である。
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【孫子正解】シリーズ第十四回 死地作戦・其の二〈第十一篇 九地〉 Kindle版
本篇は、客戦である死地作戦を理論的に論ずる部分と、その具体的かつ実践的な適用・応用の実際を示す部分の二つから構成されている。前者(其の一・理論篇)は、本篇・篇首から、『利に合えば而ち動き、利に合わざれば而ち止む。』までの段まで、後者(其の二・実践篇)は、『敢(あ)えて問う、敵、衆にして整い将(まさ)に来(き)たらんとす。之を待つこと若何(いかん)。』から、本篇・結言までの段を曰うものである。
前者(其の一)は、理論篇・総括的用兵論として、客戦と密接不可分の関係にある九地の解説を行うことと併せて、弱者の戦法の要訣たる〈第六篇 虚実〉の相対的局所優勢論を再説することにより、そもそも死地作戦を敢行する意義・狙(ねら)いは何処(どこ)にあるのかを改めて再確認させることを目的としている。前回の【孫子正解】シリーズ 第十三回は、とりわけこの部分を詳説するものである。
後者(其の二)は、実践篇・応用的用兵論として、その理論の具体的な適用・応用の実際を示すものであるが、それと併せて、〈第一篇 計〉から前篇の〈第十篇 地形〉に至るまでの所論を総括するとともに、これまでの重要命題を再説し、あるいは視点を変えて再論することにより、その軍事思想・用兵論の徹底を期せんとするものである。今回の【孫子正解】シリーズ 第十四回は、とりわけこの部分を詳説するものである。
この意味において、本篇は、〈第十二篇 火攻〉前半部の特殊作戦(火攻・水攻)を除き、孫子の用兵論(用兵原則)の纏(まと)めをなすものであるが、とりわけ、前者(其の一)は理論篇・総括的用兵論を、後者(其の二)は実践篇・応用的用兵論を論ずるものである。
前者(其の一)は、理論篇・総括的用兵論として、客戦と密接不可分の関係にある九地の解説を行うことと併せて、弱者の戦法の要訣たる〈第六篇 虚実〉の相対的局所優勢論を再説することにより、そもそも死地作戦を敢行する意義・狙(ねら)いは何処(どこ)にあるのかを改めて再確認させることを目的としている。前回の【孫子正解】シリーズ 第十三回は、とりわけこの部分を詳説するものである。
後者(其の二)は、実践篇・応用的用兵論として、その理論の具体的な適用・応用の実際を示すものであるが、それと併せて、〈第一篇 計〉から前篇の〈第十篇 地形〉に至るまでの所論を総括するとともに、これまでの重要命題を再説し、あるいは視点を変えて再論することにより、その軍事思想・用兵論の徹底を期せんとするものである。今回の【孫子正解】シリーズ 第十四回は、とりわけこの部分を詳説するものである。
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- 言語日本語
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著者について
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・山梨県出身
・拓殖大学政経学部卒(拓空会OB)
・元ラジオ日本・報道部放送記者、報道番組制作、都庁鍛冶橋記者クラブ他
・宝飾品販売会社経営
・(財)中小企業経営者災害補償事業団 教育学院副学院長
・現在、一般社団法人 孫子塾の塾長として「孫子に学ぶ脳力開発と情勢判断の方法」オンライン通信講座、「孫子兵法」通学ゼミ講座を主宰し、関連書籍の執筆活動を行うと共に、付属機関である日本空手武道会 拓心観道場の主席師範として「古伝空手・琉球古武術」の指導と普及に当る。
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2017年5月18日に日本でレビュー済み
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本篇は第一篇~第十篇までの総括であり、特に弱者の戦法(局所集中戦略)を如何に現実に応用するかを復習的に再論・再説している。
前回(前半部)が理論篇・総括的用兵論であるのに対し、今回(後半部)は実践篇・応用的用兵論となる。構成的に見ても、前者は講義形式であるのに対し、後者は問答形式となっている為、前半部の云わば理想的見解を現実に適用させるに於いて、その理解を容易にさせる伏線としているのだと筆者は述べる。
内容を簡潔に見ると、「先ず其の愛する所を奪う」死地作戦の要訣、その優位性を保つ為の地形・兵站・運兵における留意事項、戦場における「常山の蛇」的用兵の演出及び戦場統帥の要訣、九地の活用法、政戦略上の基本方針及び組織統率の要訣、順詳一向戦略等が解説される。そのどれを取っても弱者が強者に対するに必要不可欠な要素であり、強者が用いれば正に鬼に金棒となる。兵法を学ぶ上で最も興味を惹かれるポイントであろう。
因みに今回は過去のシリーズと比較しても凄いボリュームである。筆者が主宰している孫子塾のHPを確認した所、オンライン通信講座総括篇における凡そ半分を占めており、本篇が孫子において如何に重要な位置付けにあるかを物語っている。とは言えシリーズ特有の、解説毎に都度実際の歴史的戦例が挙げられている為、難解な内容では有るが読みやすく、理解しやすいよう纏められている。兵法に興味を持たれた方に特に自信を持ってオススメできる書籍である。
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